KAWAI AKIO
  川井昭夫

   美術手帖 1980.1 展評

紙ー1

クラフト紙にボールペン、1980

秋田 由里

 さてこれまで、フレームの設定をめぐって述べてきたが、もう少し若い作家の場合にとってもこの問題は重要であろう。たとえば川井昭夫と中村泰之の場合を見てみう。

 川井の場合、前回の麻布と絵具の使用から一変して紙とボールペンおよび鉛筆を使用しているが、基本的には「表面をすべて被う」ところに平面の平面たる所以を見出して仕事をつずけている。今回素材が変わったことによって壁面と作品との距離がいっそう接近し、両者の相互浸透の可能性を、つまり榎倉や岩野に近いかたちでのフレームの設定が垣間見えている。 ー中略ー  ところで川井と中村に共通しているのは、規則的な繰り返しとそれが生み出す偶然的で1回性を持った痕跡とが作品の主要な部分を構成しているということである。一方はボールペンや鉛筆で規則的に縦に短い線を繰り返しひくこととこのようにして描かれた線分相互の差異性とが、他方では規則的な矩形の繰り返しとこの矩形のなかに描かれた筆跡の差異性とが、同時に現れているのである。そして二人とも手で描いた痕跡をことさらに見せている。ここにはおそらく、これまで述べてきた事柄とはまた別の角度から照明をあててみなければならない。つまり手の痕跡の繰り返しが、そのつどフレームをずらして行くというような問題があると思うが、この問題にかんしては後の機会にゆずりたいと思う。

   川井昭夫展 コバヤシ画廊 1980.6.23-28