野積SIO-2002

 2002.7.12-13-14-20-21
 原山舎:石川県羽咋郡志雄町字原237
 主催:NOZUMI実行委員会
 協力:志雄町

アンドリュ セシル 「BABEL'02」ロープ・新聞紙・テープ 

伊藤公象 「JEWEL BOX」 セラミック

橿尾正次 「遺跡から」 針金・和紙・柿渋・松煙粉末

川井昭夫 「Dance Dance」 茄子・竹

島 敦彦(国立国際美術館学芸員)

 古い家屋を再生しつつ、その家の内外に美術作品を設置する試みは、そう珍しいことではない。たとえば直島の「家」プロジェクトは、宮島達男や内藤礼の作品を常設して、国際的にも注目を集めている。長澤英俊が、数年前に京都の町家で開いた個展も記憶に残っている。あるいは、町おこしの起爆剤として、地方の農村や町を巻き込んで、大規模な展示を戦略的に行う企画も少なくない。
 そんな中で、川井昭夫を中心に、この数年富山と石川で開かれてきた「野積」のシリーズ展は、作る側も見る側にも気負いがなく、等身大の目線で見られる特徴があり、好感が持てる。北陸に在住あるいは出身の美術家によるグループ展であることも、期待と同時に安心感を与えるのかもしれない。一過性でなく、継続している点も重要だ。会場の「原山舎」は、川井が日頃、制作場所として借りている家でもあるが、長年の風雨で傷んだところを修理しながら、維持されている。
 出品者は、セシル・アンドリュ、伊藤公象、橿尾正次、川井昭夫の4人。川井と橿尾はすでにこの場所を熟知しており、伊藤とセシル・アンドリュは事前に下見した上で、展示に臨んだ。
 セシル・アンドリュは、世界各国の新聞紙を1本のロープに巻き付けて、それを1m80cmの高さまで円筒形に重ねた「BABEL ’02」と原稿用紙を元に作った枡型の入れ物を分割して、床の間の柱を境に左右対称(右側は鏡を入れて)に並べた「OPENED WORDS ’02」、さらに白いシールを鏡の表面に規則的に貼った作品6枚を縁側のさんの外側に取り付けた。「LABEL ON MIRROR ’02」と題されたこの作品は、家の手前の風景を映し出すのみならず、建物の奥の部屋の開け放たれた窓の向こうの風景までも取り込んだ。鏡に映るものと現実の風景とが入れ替わって見えるので、作者が意図した言葉の表と裏を暗示する効果が、予想以上に出ていたのではないか。
 伊藤公象の「Jewel Box」は、家の土間に当たる部分に設置された。はがれた床の不定型な形のくぼみに、約1300度で焼成された陶土(ふりかけられた長石の粉末がさまざまな色どりを見せている)のかけらが寄り添ったり、ずれたり、さり気なく置かれて、その場の空気に独特の緊張をもたらしていた。人為によって焼かれた陶土が、人為を超えたあるいは人為を欺く輝きや色彩を放つ。希少価値と呼ばれる物差しだけでは計れない宝石という言葉との齟齬が、人間の欲望の形とは何なのかを考えさせる。天井が高い空間での展示ゆえに、照明の当たった部分と上方に広がる闇の部分とのコントラストが作品に深みを与えていた。
 橿尾正次は、母屋から離れた土蔵を使用した。1階には「光の彫刻」と題され、裏側から光源を当てた軽やかな作品が、2点展示された。一方、2階の作品「遺跡から」は6点組で、針金で構成した骨組に古文書などを貼り合わせた個々の作品を、天井から円形状に吊り下げた。古代の巨石文化の源を辿るような量感、それでいて人間の奥底にある記憶を呼び覚ます自在な線のうごめき。別室には、自由闊達なドローイングも展示され、立体作品の原型を見るようで興味深かった。
 川井昭夫は、5月に植えたナスの苗が、展覧会の頃にちょうど実を結ぶように手入れをした「Dance Dance」を発表。植物を円環状に配置する作品は、以前から制作しているが、今回は茎の一部を切断し、隣の苗の茎と接合し、8つの苗をすべてつなげてひとつの生命体にしたという。つながった茎の曲線がマチスの絵を思わせることから、この題名になったようだが、終生植物の形から学んだこの画家への讃歌にもなっている。室内のドローイングは、幼い頃から川井が慣れ親しんだ千里浜、羽咋川、それに草の表面をデジタルカメラで撮影しプリントアウトしたものに油彩を手描きしたものである。画布の表面そのものにとことんつきあってきた川井の新たな展開である。
 ところで、旧家という場所の特殊性は、4人の出品者にどのような影響を与えたであろうか。美術館や画廊で発表する時はうまくいっても、照明をしてもかなり暗い部屋の中では必ずしも生きない場合がある。逆にいまひとつ納得がいかないと思っていた作品がよく見えることもある。家の構造や特徴を失わずに、ひそかにしのびよるように展示した方が、うまくいくことが多い。が、沈みすぎても面白くない。その微妙な距離の取り方が難しい。
 もっと多くの方々に見てもらいたい展覧会である。が、自分だけがそっと見ておきたい展覧会でもある。


Artist Talk  7.20 pm2:00-3:30

司会:島敦彦

参加作家:セシル・アンドリュ 伊藤公象 橿尾正次 川井昭夫


永坂晃子パフォーマンス  7.20 pm11:00-pm5:00

  

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