草葉の陰から・・・と言うように、草はあの世とこの世のあわいにあっ てこれを繋ぐのです。
草葉の茂みの奥には、闇が潜んでいるように思われます。そして、その 闇は何故か優しく,懐かしく私を魅了して止まないのです。アジアの東
の果てで、永々と育まれて来た人と自然の濃密な関係に、モダニズムを 経た私の意識が今、新たに向き合うことを求めているようです。と、このように書くと伝統的な具象絵画へ回帰してしまったようです
が、そうではない。
70年代後半に私なりの絵画の解体の末に行き着いた「麻布ペインティン グ」は、対象を再現するものでも、物そのものをリテラルに提示するも
のでもなく、絵画の物理的な支持体である麻布に限りなく近づけた色彩 で、布を織るように規則的な線で覆い尽くすものでした。そして今、私
の「フォトペインティング」はイメージ(写真)そのものを油彩で塗絵 すること(嘗ての再現的に描写する絵画ではなく)により、草のイメー
ジを油絵の具の表面に置き換えるものです。つまり、ジャッドの言う 「絵画の秩序と構造からの開放」をデジタルカメラとパソコンソフトを
駆使して実現しているのです。私の絵画は描くプロセスに於いて、何も 付け足すことなく、何も表わさず、ただ寡黙に絵画の表面を微細に埋め
尽くすことで達成されるのです。絵画に於いて表現の中身とは、画家自 身の手による筆触そのものであると言えます。そしてこの痕跡こそが、
ものの表面にかおりが浸透するよに、物質の表面を絵画たらしめるの です。
このことは、モダニズム絵画が捨て去ったイメージ(映像とそれに付随 するもの)を再び取り戻しながら、引き継ぐことを意味していると私は
考えています。草のイメージをペーストした私の絵画は、その草葉の陰 の隙間を通じて見る人の視線を絵画の異次元へと導いてくれることをも
目論んでいるのです。
川井昭夫 2009.3.5
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